夕暮れ桜


何度めの桜を見たのでしょう
貴方に出会ってから

貴方から注がれたものは
うららかな春の陽に舞い積もる
まるで桜吹雪の様でした

あまりの幸福 心地良さに
ふと 我を忘れて
この陽だまりの中に融けて行きたい

貴方と二人 深海の竜宮の世界に暮らせたら
そんなおとぎ話を夢見たものでした

この玉手箱を開けば たちまち煙と共に
夢は消え去るのでしょう

悩んだ挙句 わたしは蓋をあける決意をしました
だって 私には人の心を弄べるだけの
度量も強かさも持ち合わせなくて・・・

夢は覚めませんでした
けれど 幸福にも成れませんでした

むしろ 其れは痛みや悲しみ
貴方を苦しめるだけの世界 
燻り続ける焼け野原の様な野花も咲けない
そんな世界へと変えてしまったのです

花弁はやがて力無く朽ち果て黄土色の土へと還り
桜は静かな眠りにつきました
もう あの頃の様に芽吹く事は無いのでしょう

其れはもう疲れ切った老木の様
立ち尽くす寂しげな姿の背景には
桜の思い出の最後を彩る様にミルク色に染まった
淡い オレンジ色の夕日が 静かに沈んで行きました
それでも 最後に告げたかったのは
心からの有難う
私の人生 萌え出づる春のほんの一ページ
桜色に彩られたあなたとの出会いでした